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理工学研究科?柴田翔平さん、学振特別研究員に採用
―御嶽山噴火が導いた茨大ライフ「大規模噴火の長期的リスク評価に役立ちたい」

pict_01.jpg 大学院理工学研究科博士後期課程2年の柴田翔平さんが、日本学術振興会(学振)の令和5年度特別研究員に採用されました。この制度は、優れた若手研究者の自由な発想による主体的な研究を支援するもので、柴田さんには来年度から研究奨励金が支給されます。研究課題は「マグマの破砕深度から探る大規模マグマ水蒸気噴火の発生メカニズム」。指導教員の長谷川健准教授との出会いや研究活動の展望を聞きました。

 2014年9月26日、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山が噴火を起こした。火口付近にいた多くの登山者らが犠牲となり、日本における戦後最悪の火山災害となった。

 御嶽山噴火のニュースは、当時の柴田さんが持っていた噴火のイメージを覆した。「噴火=穏やかなもの」から、「噴火=爆発的なもの」という認識に変化させた。さらに、この噴火で「火砕流」という言葉を初めて知り、その現象に興味を抱いた。

 山形県新庄市から茨城大学理学部に入学。卒業した高校では地学が開講されていなかったので、大学で満を持して地学を学ぶのが楽しみだった。そして入学直後、地球環境科学コースに長谷川健准教授という火砕流の研究者がいるということを知った。「あとでわかったことですが、長谷川先生のような大規模な火砕流を専門にしている研究者は、国内にはあまりいません。僕はラッキーでした。」と振り返る。

 3年生になって長谷川准教授の研究室に入り、いよいよ本格的な火山研究に取り組むこととなる。
 調査のために最初に出かけたフィールドは、「摩周湖」で知られる北海道東部の摩周火山の周辺地域だった。学部3年生の夏、北海道へ行くのも飛行機に乗るのも人生初の経験で、フィールドでは長谷川准教授に火山地質調査の基礎と楽しさを教わった。

 日本国内で大規模な噴火堆積物を見られる場所は、意外と少なく、それらの分布は九州や北海道に偏っている。北海道東部では、過去の噴火で流れ下った火山灰や軽石が何十メートルという厚さで積もっていて、崖ひとつ分が1回の噴火の堆積物でできているということも珍しくない。

 火山噴火についての地質学的なアプローチは、デジタル技術が進展する中で近年高度化しているものの、ベーシックな調査手法は100年間ほぼ変わっていない。すなわち、フィールドをひたすら歩き、地層から噴火の痕跡を丁寧に記載していくことだ。

 柴田さんも、研究室に配属されてから博士後期課程2年(D2)となった現在までの6年間で、地質調査のために計100日近くは北海道東部に滞在している。学部時代は摩周、大学院へ進学してからはその少し北西側にある屈斜路にフィールドを移した。滞在中は近くの温泉街に素泊まり。運転するレンタカーが農道にはまったところを、地元の方に助けてもらったこともあった。

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 大学院でも、マスターとドクターとでは求められるレベルが違う。
 博士前期課程(マスター)まではとにかく歩きまくって、4万年前に起きた噴火がどういうものだったのかを、堆積物の層厚や分布といった情報を記載していく地質調査がメインだ。広範囲だから当然時間もかかる。
 しかし、博士後期課程(ドクター)となればそれだけではダメだ。そういう噴火がなぜ発生するのか、という問いに踏み込まなければならない。「視野を狭めずにやっているつもりですが、博士論文としては、どうしても1カ所尖らせたテーマが必要なんですよね」(柴田さん)。

 柴田さんの「尖らせたテーマ」が、噴火における「水」の関与を明らかにするというものだ。
 火山ではさまざまな形で水が存在している。地下水として、火口湖やカルデラ湖、あるいは海水の場合もある。それらの水と高温のマグマが接触すると、爆発力が飛躍的に上昇する、"マグマ水蒸気噴火"が発生することが知られている。日本にも津波をもたらした今年1月のトンガ諸島の海底火山の噴火も、海水の関与によって大規模な噴煙柱を形成したと考えられている。しかし、具体的な発生メカニズムなどはまだまだ分かっていない。

 現在の研究対象である、屈斜路火山で4万年前に発生したカルデラ形成噴火も、大規模なマグマ水蒸気噴火をともなっていた。その痕跡は噴火の堆積物に残されている。高温マグマと水が接触すると、板ガラスをパーンと割ったような急冷破砕の形状が火山灰に残る。そうした痕跡から何万年、何十万年前の噴火のメカニズムを解明しようというのだから、言うまでもなく大変なことだ。「水が関与すると火山灰がやたらと細かくなります。さらに、大規模なマグマ水蒸気噴火の観測事例はほとんどありません」と柴田さん。

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 柴田さんが着目しているのは、マグマと水が地下のどのあたりで接触し、破砕したのか、という点だ。研究成果の一部は既に論文として投稿しており、それが受理されていたことが、今回の学振特別研究員の採用にもつながった。

「火山では水がいろんな形で存在するのですが、大規模なマグマ水蒸気噴火がどのような条件?環境で発生するかが制約できれば、このタイプの噴火を予測して、防災に役立てることができるかもしれません」

 実際、大規模なマグマ水蒸気噴火を発生させた火山は国内外に複数ある。しかも、カルデラを形成するようなタイプの噴火にともない、数万年に1度という単位で周期的に起こっているケースが多い。そのサイクルを踏まえれば、同じような大規模噴火が日本でも繰り返し発生するリスクは充分にある。

 火山性微動などの兆候を捉えた噴火警戒レベルのような短期的なリスク評価に対し、「長期的なリスク評価も大事」と柴田さんは話す。特に最近議論になっているのが、原子力発電所の立地や放射性廃棄物の処理の対象地における火山噴火災害のリスクだ。大規模な噴火の研究を続けてきた柴田さんとしても、「自分の研究を長期予測に活かせればと思っています」と展望する。

pict_04.jpg ところで、柴田さんを火山研究に導いた御嶽山は、もう訪れたのだろうか。そう尋ねると、「いや、実はまだです。他の山の上から御嶽山を眺めたことはあるんですが。いつか行ってみたいです」という答えが返ってきた。

 研究者として文字通りこれからも歩き続けなければならない。来年度は、8年間の茨城大学の学生生活の最終年として、そして学振の研究員の1年目として、さらなる探究に挑んでいく。

(取材?構成:茨城大学広報室)