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「はやぶさ2」回収試料の研究に橋爪教授&藤谷准教授が挑む!
―小惑星リュウグウからわかることは?なぜ茨大の計画が選ばれた??

 小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰ってきた岩片や粒を使った研究計画について、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が世界中に向けて公募を行いました。このほど第1回公募で選定された9か国?40件が公表され、日本の研究者を代表とする計画が10件、そのうち2件が茨城大学の教員が研究代表者を務めるプロジェクトでした(参考:JAXAプレスリリース)。選定された理工学研究科(理学野)の橋爪光教授、藤谷渉准教授に話を聞くと、リュウグウ試料のおもしろさや宇宙研究における茨大の凄いポイントがわかりました。

pict_0629_01 自慢の質量分析計を前に橋爪教授(右)と藤谷准教授

―今回の研究計画を教えてください。まずは橋爪先生から。
橋爪「リュウグウというのはあまり加熱されていなくて、水とか有機物がたくさん含まれています。その有機物や水を構成するような揮発性(きはつせい)元素を調べるのが僕の目的です。現在、初期分析の論文のレビューが進んでいるところですが、それを踏まえて各元素の起源を詳しく調べるという計画です」

―初期分析からもリュウグウの特徴が見えてきているのですか?
橋爪「藤谷先生が関わった研究から、リュウグウのサンプルと、ある種の炭素質隕石の組成が化学的にそっくりだというデータが出ていたのですが、実はすべてがそっくりというわけではなくて、特に窒素の同位体組成を見てみると、全然違っているということがわかったんですね。その論文では茨大で出したデータがたくさん使われています。ここのラボで運用している質量分析計は、めちゃめちゃ小さい試料でもきっちり同位体比が出るというのが特徴なんですよ。これだけの性質をもっているのは世界中で3ラボぐらいです」

―その組成の違いから新たな知見が出てくるかも知れないということですね。藤谷先生の研究は?
藤谷「リュウグウの現在の姿は直径が1000メートルにも満たない小惑星ですが、46億年前からその形なのではなくて、「ラブルパイル小惑星」、要は瓦礫の山というもので、もっと大きな天体が破壊された破片が集積してできたんです。私は、その元の大きな天体、母天体で何が起きたのかということに関心があります。リュウグウの前段階の天体における水や有機物、熱などの進化を探りたいです」

pict_0629_02 小惑星リュウグウ((c)JAXA、東京大など)

―特にどんな点に着目を?
藤谷「橋爪先生の話はリュウグウと隕石の違いということでしたが、実は同じリュウグウの試料の中でも粒子ごとに、さらには粒子内の岩片ごとに違う熱履歴や特徴を有しているんです。不均一なんですよ」

―それは珍しいことなんですか?
藤谷「リュウグウの特徴のひとつといえると思います。元の大きな天体では中心と表面で温度が違うわけなので、粒子ごとに温度と年代を調べれば、大きな天体の描像がわかるんじゃないかと」

―他にリュウグウの試料の特徴はありますか?
橋爪「小惑星の表面の粒を持ち帰ってきたというのは、日本のはやぶさ初号機が世界で最初に成功して、今回のはやぶさ2が2例目です。はやぶさ初号機のターゲットだったイトカワは水や有機物を含まない小惑星なのに対して、リュウグウは水や有機物を含んでいて、しかもそれがだいぶ抜けていったということもわかっている。隕石の場合、大気圏に突入する過程で表面が変質してしまいますから、宇宙空間に露出している表面の物質、特に水や有機物を詳しく分析できるというのは、このリュウグウの試料で初めて実現できることなんです」

―表面の分析というのが重要なんですか?
橋爪「宇宙空間は人間が浴びたら確実に死ぬような銀河宇宙線、放射線が降ってくるという過酷な環境なんですね。そういう過酷な状況に露出している物質というのが、初めて地球上の我々の手元にやってきたわけです。水が抜けたというのも、母天体で起きたものなのか、それとも過酷な表面にあることによって抜けたのかはまだわかりません」

―有機物や水は私たち生命の源泉といえますが、そのような物質が、強い放射線が飛ぶ小惑星表面でどう生成されたのか、その理解につながるかも知れないということですね。
藤谷「ええ、そうです。その点で、今回はやぶさ2は表面の試料を採取するとともに、表面を爆破させた上で、少し掘ったポイントの試料もとってきています。それらを比較することで表面の特徴がわかるかも知れないということです」

―その他、初期分析でわかったことはありますか?
橋爪「実は地球と比べるとおもしろいことが言えるんです。現在地球に存在している窒素とか他の有機物というのは、もとは隕石から運ばれてきたと考えられています。ところが、これまで地球に落ちてきた隕石の窒素同位体は、地球とは一致しなかったんです。同位体というのはDNAのように親子関係がわかる指標ですが、この不一致が問題だった。ところがリュウグウの試料の窒素同位体を調べてみると、地球とそっくりなんですよ。偶然なのか、理由があるのか、とにかく初めて一致した。これはかなり興味深いことです。しかし、それに対しては、実は地球でコンタミされたものなんじゃないかという批判が出てくるわけです」

―コンタミ?
橋爪「汚染ですね。それらの特徴的な元素はリュウグウにあったものではなくて、地球の物質を一緒に測っちゃったんじゃないかという批判です」

pict_0629_03

―なるほど。
橋爪「ですから、JAXAのみなさんもそれぞれの研究者も最大限に気を遣って、絶対に地球の物質が混入しないように観測した、そこが重要なんですよ」

―それはサンプルの採取時だけでなく、地球上で試料を移動させたり、ラボで調べたりするときも、地球の物質が混入しないようにしないといけないということですよね?
橋爪「そういうことです。ですから開封するときも、ビーッと乱暴に開けてはダメだし、ピンセットでつまんでもアウトですよ」

―どうやって観測するんですか?
橋爪「まさにそれが一番難しかったことです。普通はクリーンチャンバーみたいなものの中でハンドリングするのですが、装置に導入するときは難しい。今回は風船を作って、外側から手袋で操作するような、そういうドラフトグローブみたいなものをお手製で作りました」

―涙ぐましい努力ですね。
橋爪「涙ぐましいですよ(笑)」
藤谷「私の研究でも外国人がチームに入っていますから、まず国立極地研究所で試料をつくって、それを一旦スコットランドに運び、次に高知に運んで、最後茨大に来る、というような経過を辿ります。その移動中もコンタミされないように、真空デシケーターを用いて郵送するなど、慎重に扱わないといけません」

―その研究機関ではきちんと試料を扱えるんだ、という信頼なくしては成立しないプロジェクトなんですね。逆にいえば、茨城大学がずっと関わっているというのは、そうした信頼が高い証ということかと思います。今回配られる試料はどのぐらいの量なんですか?
藤谷「数ミリグラム、ほんの何粒とか、そんなものです」

―えっ?そんなちょっと??
藤谷「これでもだいぶ大盤振る舞いですよ。リュウグウでは当初の目標よりも採取できたので」

pict_0629_04 リュウグウからのサンプルの例((c)JAXA

―その量で、試料内の不均質な状態も観測できるんですか?
藤谷「はい、できます。ほんの0.1ミリグラムの粒でもそれぞれが母天体、あるいはその前の時代の歴史を担っているんです」

―それを世界中のいろんな研究機関で分析していくんですね。
藤谷「そうです。ただ、年代測定は技術的に難しく、研究機関ごとの測定方法の差が結果に表れてしまう可能性があります。そんな中で、実は大学院生たちと一緒に年代測定の技術をがんばって開発してきまして、最近ようやく手法を確立したんですよ」

―ほう!どんな技術ですか?
藤谷「ものさしを作るようなものです。年代は放射性同位体の半減期をもとに計算しますが、その値は分析機に入れればポンと出てくるようなものではなく、値が既にわかっているものと比較して算出するんです。ところがその対象物がみんなバラバラだったんですね。そこで私たちが作ったのが、標準試料というもの。要は統一された基準、ものさしとなる試料です」

―そのものさしの試料をもつ藤谷研究室が、常に正確な年代測定ができる唯一の機関ということですか?世界中から測定のオーダーが来そうですね。
藤谷「ええ、実際に今たくさん依頼が来ています。今回の研究でも、この技術を使ってリュウグウのサンプルの不均質さや分布を正確に測定できればと思っています」

pict_0629_05

―サンプルを汚染しないように扱える技術、世界で3本の指に入るような窒素の精密な質量分析、年代測定のための標準試料......茨大すごいですね。
藤谷「今回の公募研究で茨大から2つのプロジェクトが選ばれたというのは、本当に嬉しいです。茨大のこの分野の歴史は、前々学長の池田幸雄先生の時代に始まりますが、今後もしっかりと受け継いでいきたいです」

―はやぶさ1、はやぶさ2と続き、今後の日本の宇宙研究のプロジェクトにはどんな計画が待ち受けているのでしょうか?
藤谷2024年に、火星の月、衛星に無人探査機を飛ばす計画があります。MMXMartian Moons eXploration)というものです。これは2029年に地球に戻ってくる予定です。この計画の試料採取装置の開発や試料分析には僕も関わっています。いい年になってきたので(笑)、いつまでも試料をもらうだけではなくて、何をとってくるかという企画にも関わらなければと思って取り組んでいます」
橋爪MMX打ち上げ後1年以内に、今度は、月の極域に探査機を飛ばす計画があります。月の極域は温度が低くて、水が残っているのではないかと言われているんです。その水を調べてやろうと。月はすぐそこですから(笑)、こちらは1年ぐらいで計画完了の予定です」

―どちらも楽しみですし、いずれもはやぶさの成功があってのビジョンですね。
橋爪「まさに、日本が誇れる成果ですし、そのいずれにも茨大が関わっているというのも誇らしいことです。一方、このMMXと月のプロジェクトの次の計画は今のところなく、日本の大型の宇宙研究のプロジェクトは一旦おしまいとなりそうです。背景には日本の財政状況の厳しさなどがありますが、その後は民間企業がそうした研究を担っていくと思います。私も民間企業とやりとりを始めたところです」

―なるほど。一方で、民間企業が活躍するのにしても公共投資は必要ですよね。私たち国民もしっかり応援していくことが大事だと思います。ありがとうございました。

(取材?構成:茨城大学広報室)

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