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大学生たちが立ち上げた「日立市100人カイギ」
―日立に住む人の輪の中から見えたこと

 日立市で働く人?住む人たちが毎回5人ずつ登壇し、プレゼンテーション&交流をする「日立市100人カイギ」。20回=100人に達したら終了、というのがルールだ。茨城大学日立キャンパスに通う3人の学生たちが立ち上げ、今では他学部や他大学?専門学校のメンバーも運営に参加している。少しずつ広がる人の輪の真ん中で、学生たちはどんなことを感じながら活動を続けているのだろう。

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 今回インタビューに応じてくれたのは、立ち上げメンバーである木本 晴久さん(工学部情報工学科3年)、飯島 昂也さん(工学部都市システム工学科4年)、扇谷 匠さん(理工学研究科都市システム工学専攻M1)と、3月にメンバーに加わったばかりという、同じく日立市内にキャンパスがある茨城キリスト教大学の高松 七海さん。木本さん、飯島さん、扇谷さんの3人が出会った場所であり、「日立市100人カイギ」の拠点でもある、JR常陸多賀駅前のシェアオフィス「晴耕雨読」で話を聞いた。

木本「きっかけですか?去年(2021年)の夏ぐらいですかね、晴耕雨読を運営している加藤雅史さんから『君たちで何かやってみたら?』と言われて、『はい』って感じで」

 実は「100人カイギ」は日立だけではなく全国のさまざまなところ開かれている。プラットフォーム型のイベントで、茨城県内にも「つくば100人カイギ」「桜川市100人カイギ」の取り組みがある。

 木本さんは入学式が中止となった20204月に入学。ほぼ遠隔授業となった1年次は富山の実家で多くの時間を過ごした。2年生になって水戸から日立キャンパスへ移り、バイトを募集していた晴耕雨読のスタッフになった。そこでいろんな社会人や学生たちと出会ううちに、人のつながりがどんどん生まれるようなイベントをやってみたいと思うようになり、「100人カイギ」のコンセプトに共感を覚えた。

 木本さんにとっては先輩となる扇谷さん、飯島さんの二人は、年下のリーダーである木本さんを上手に盛り立てる。

扇谷「木本君がやるといったら何でも協力します。ためらいは...なかったですね」
飯島「自分が2年生、3年生のときに木本君のような精力的な活動は絶対無理でしたね」
扇谷「一番大変なのは木本君です。僕らは来た指示を淡々とこなすだけなんで(笑)」」
木本「やめてください(笑)」

100kaigi2熱い想いでプロジェクトを先導する木本さん

 第1回の開催は今年(2022年)115日。記念すべき最初の5人のゲストは、まちづくり団体「TaganiaL(タガニアル)」代表の茨大生?相田 直樹さん、飲食店「銀MARU」のオーナーなどを努めている庄司 文匡さん、日立市かみね動物園園長の生江 信孝さん、茨城キリスト教学園高等学校の先生で落語もたしなむ斎須 博さん、そして晴耕雨読を運営する建築家の加藤 雅史さん。

 登壇者を決めるにあたり、自分たちで設けたルールがある。学生(中学生や高校生も)は必ず一人入れる、コロナ禍の中で大変な思いをしている飲食店の方も一人入れる、できれば行政の方も出てもらう。「いろんな人をこの場でミックスしたくて。たとえば学生と市長、とか、普段は一緒にならない人たちが顔を合わせる中で新しいことが何か起こるんじゃないかと思うんです」(飯島)。

 とはいえ、初回は不安と緊張の連続だった。登壇者にはいきなりアポを取らないといけない。そしてイベントは無料ではなく有料。集客方法も悩んだし、当日も「何回リハーサルしても『これでいいのかな』という不安がいつまでも消えない」(扇谷)。木本さんも「1000円でこの時間を買ってもらっているから、なあなあで終わらせたら申し訳ないですし」とその重責を語る。

100kaigi31回の日立市100人カイギの様子

 こうして臨んだ第1回だったが、まずまずの成功。そして実際、この場をきっかけに新たないつながりが生まれたという。「銀MARUの庄司さんが、イベントの後に『100人カイギに参加した人がお客さんとして来てくれたよ』って教えてくれて。それは本当に嬉しかったですね」と木本さんは振り返る。

 これを毎月、計20回にわたって続けていくというのは並大抵なことではない。登壇者のラインナップを考え、アポをとり、登壇可能な日程を調整していく。また、「100人カイギ」の運営会社とのやりとりもある。だからこそ、新たなスタッフが加わると心強い。

 茨城キリスト教大学3年生の高松さんは、3月に行われた第3回の登壇者だった。自宅のある笠間と日立とを往復する生活は、高校時代を入れて6年目を迎えた。小学生の頃からボーイスカウトの活動をしており、今は「港の会」という大学のボランティアサークルの代表を務めている。

高松「木本さんから急にSNSでメッセージが来て。知らない人なので最初はびっくりしましたし、ちょっと怖かったです(笑)」

 登壇したときの思い出は?と聞くと、「緊張していてひとつも覚えていません」と朗らかに笑う。「オンラインでは何度かプレゼンする機会もありましたが、対面で多くの人の前で話すというのは初めてで。私以外の方は、準備をした内容というよりその場で心から出てくる言葉を伝えたり、ダンスを踊る人がいたり、場をつくるのがすごくうまいな、と思って。勉強になりました」。

100kaigi4高松さんの登壇時「緊張して覚えてないです」

 高松さんが緊張していた様子は、立ち上げメンバーの3人もよく覚えている。一番年長の扇谷さんがしきりに「大丈夫、大丈夫」と声をかけ、安心させた。「登壇者に学生を必ず一人は入れる」というルールを決めた以上、いろんな活動をしている社会人たちの中で緊張する学生たちの緊張をほぐし、サポートする、というのもスタッフの大切な役目だ。「親目線ですね」と語る扇谷さんたちの対応が、高松さんにポジティブな印象を与え、新たな運営スタッフとして加わることになった。高松さんは「まだ見習いです」と謙遜するが、扇谷さんは、「女性の方に登壇をお願いするときとかは、場合によっては女性のスタッフからの声がかけやすいですからね。すごく助かってます」と期待をこめて語る。

100kaigi5「親目線」の最年長メンバー?扇谷さん

 4月までで20人のゲストが登壇した。「今のところ、登壇をお願いして露骨に嫌な顔をするような方がひとりもいない」と木本さん。「不思議ですよね...ボランティアで、当日のリハも含めて3時間ぐらい時間をいただくのに。貴重なお時間を無料でいただいているなんて」。

 これについて飯島さんは、「東京の規模ではこうはいかないと思うんですよ。日立というローカルな場所だからこそ、この勢いが成り立つ。そして人があたたかくて、まちに対して抱えている想いがどこかにあって、『日立市100人カイギ』がそれをつなぐ手助けになっているんじゃないでしょうか」と語る。

100kaigi6飯島さんは場を和ませるムードメーカーでもある

 こうして学生たちの活動がつなぎ始めた地域の輪が、少しずつ大きくなり始めている。日立のまちは変わりつつある?と聞いたら、それに対する答えは、意外にも冷静な答えが返ってきた。

扇谷「どうでしょう。僕自身が外に出るようになったから、変わってきているように見えているだけで、まだせいぜい、ポツポツ芽が出てきたところかな、という感じですかね」
飯島「大きな変化は起きていないと思います。でも、これから大学と市が連携することでちょっと変わっていくんじゃないですかね」
木本「衰退する地方都市の典型のようになってますよね、日立は。若者が少なくて生活が不便で、お店もつぶれちゃって...」

―そういう中で、日立に関わっている人たちの危機感、今こそ動き出さなきゃという思いは感じる?
扇谷「それはひしひしと感じますね」
木本「そうですね。やれる人がやれるときにやれることをやる、という感覚は間違いなくある」
飯島20代とか30代の人たちが『やろう!』とどんどん動いていて、それを見て40代とか50代の人たちも腰を上げてきているというか。実際、『100人カイギ』のSNSでも、『下の世代ががんばっているから私たちも何かやってみよう』という声があって、それは嬉しいですね。若い世代の行動は、多くの人たちが動く小さなきっかけを作る力になる。そう考えると、日立市ももっと学生を活用した方がいいと思うんですよ」

 日立キャンパスに通う学生は約2300人。日立市に住む100人に1人が茨大生という計算だ。茨城キリスト教大学の学生を加えればさらに増える。

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―工学部の学生はどんなモチベーションでこのまちに関わっていけばいいだろう?
飯島「まだイメージは湧かないですね。ただ、エンジニア気質というのは活かせると思います。専門的な技術をまちに持ちこむような」
木本「そうですね。先日、学部長の乾先生と話す機会があって、『大学生が大学生のうちに社会人だと勘違いできるような環境が必要なんじゃないか』みたいなことを伝えたんです。僕自身、今リモートである仕事もやっていて、それがすごく楽しくて。自己紹介するときには、晴耕雨読のスタッフやってます、とか、リモートで働いています、とか言って、茨大生という肩書きを出すのは5番目ぐらい。だから結構、大学生だと思われてないと思います(笑)」
扇谷「社会人としても見られるけれど、一方で学生だから許されるということもあって、それはもっと戦略的に使えるんだということは、他の学生たちにも実感してほしいですね」

 「君たちで何かやってみたら?」という何気ない声かけからスタートした「日立市100人カイギ」は、まちを想う人たちを着実につなぎ始めている。そしてその輪の真ん中で、若い運営メンバーたちは「社会人であり学生である」というアイデンティティを自分のものにし、さらにその自意識を具体的な行動へとつなげている。「日立」というまちが再生する胎動が聞こえてくる。

 今後は、茨大の日立キャンパスや茨城キリスト教大学のキャンパスでもイベントを開くべく、目下準備中だ。「同じ大学生たちに関心をもってもらって、どんどん参加してほしい。社会人でもあり、学生でもある、という立場を戦略的に使える人が数千人という規模で動き出したらすごいことになりますよね」。

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(取材?構成:茨城大学広報室)